糖尿病網膜症とは、糖尿病が原因で瞳の奥の眼底に出血(眼底出血)が起こることを言います。眼底は、瞳の中の奥にあり、外からは簡単には見えません。眼科医が特殊な器械を使って初めて診ることができるところですから、自分で目を見てわかるものではありません。また、網膜症が発生してもすぐに失明するわけではありません。痛くも痒くもありません。そのため患者さんは自分に網膜症が起こっていることに気がつかず放置し、手遅れになって失明してしまうことがあるのです。
初めのうちは軽い網膜症も徐々に進行し、重症度を増していきます。よく用いられる重症度分類(福田分類)では、その重症度を1~6期に分け、治療法もその重症度に合わせて選択されます。
最初の1期は、眼底に小さな出血がぽつぽつ見られる時期で、眼科的には無治療で経過を見ます。この出血は血糖の治療で治る可能性があります。病期が進んで2~3期になると出血の数や量が増え、出血以外に浮腫や白い斑点(軟性白斑)も見られるようになります。また、3期では「目がかすむ」といった自覚症状が出るようになります。この時期は、前増殖期とも呼ばれ、放置するとどんどん病状が悪化してしまうため、レーザー光凝固術という治療が行われます。4~5期になると増えた眼底出血が眼球内部全体に広がり(硝子体出血)、視力が急速に低下します(この時期を増殖期と言います)。それでもこの時期は、手術をすることで失明を免れることができます。6期は糖尿病網膜症の末期で、ほぼ失明状態で、回復の見込みはほとんどありません。
眼底の弱った血管を強化し、出血を予防することが目的です。軽症~重症の網膜症全般を通じて行われる治療です。
眼底の出血部やその周辺の血流の悪い部分(無血管野)にレーザーを当てて出血を止める治療で、前増殖期以上に対して行う治療です。外来通院で行うことができます。病状が軽ければ一度のレーザー照射ですみますが、重症の場合は何回もレーザーを照射する必要があります。糖尿病網膜症の最も基本で、最も効果的な治療法です。
ここ数年、もっとも発展した治療法です。もともとは眼底出血が眼球全体に広がった多量の出血に対して行われる手術でしたが、最近では眼底の浮腫を引かせるために行われるようにもなりました。眼底に直接触れることができるので、さまざまな眼底の病状にこの手術が応用され、以前では諦めた重症の病状も治すことができつつあります。
眼科治療技術が目覚ましく発展した現在でも、失明原因の第2位はこの糖尿病網膜症です。(ちなみに、第1位は緑内障、第3位は網膜色素変性症、第4位は加齢性黄斑変性症です。)これは、糖尿病や糖尿病網膜症の治療が手遅れの人が多いためと考えられます。糖尿病患者さんは「糖尿病は眼にくる」ことを知っていても、初期の網膜症は、全く視力に影響しないために、自分の目に異変が起こっていることに気づかずにいるためでしょう。自覚症状が出始める第3期では、レーザー光凝固術を行っても視力障害が残ってしまうことが多いので、その前の第2期からの治療が大切です。そのためにも、糖尿病になったら、眼の自覚症状が無くても定期的に眼底検査を受け、早期に発見し早期に治療を受けるようにしましょう。
糖尿病網膜症以外の糖尿病による眼の合併症に「白内障」「緑内障」「角膜症」「眼筋麻痺」「虹彩炎」などがあります。
白内障 | 瞳の中の水晶体が濁り、視力が低下します。 |
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緑内障 | 眼圧が高くなり、視野狭窄がおこります。 |
角膜症 | 角膜表面にキズができやすくなります。 |
眼筋麻痺 | 眼球の動きが悪くなります。 |
虹彩炎 | 瞳の中に炎症が起こり、充血・かすみが発生します。 |
これらその他の合併症は、網膜症の治療方法とは異なり、目薬で治療することが多いですが、網膜症と同様に早期発見早期治療が重要です。