白内障手術では、多くは加齢によって濁ってしまった水晶体(もともと目の中にあるレンズ)を取り出し、その代わりに人工のレンズ(眼内レンズ)を入れます。眼内レンズは単焦点レンズが主流です。単焦点レンズとは、ピントが一カ所にしか合わないレンズで、遠くが見えるように度数を設定すれば近くは見えず、近くが見えるように設定すれば遠くは見えません。そのため、大抵の場合には手術後にメガネを必要としていました。
近年では、遠近両用の多焦点眼内レンズが登場したことで、多くの方が遠方・(中間)・近方をみる時の、メガネへの依存度を低減させることが可能となりました。
■単焦点眼内レンズ
通常使用される保険適応のレンズで、遠方・近方の一方へ焦点を合わせるため眼鏡が必要となることが多い。
■多焦点眼内レンズ
その多焦点機構により遠方・(中間)・近方ともに視力回復が可能で、眼鏡依存率が低減される。
〈適している方〉
多焦点レンズは全ての方に使用できるわけではありませんが、老眼鏡のかけ外しが煩わしいと感じている方や、メガネをかける機会を出来る限り減らしたいと考えている方に向いていると思われます。
〈適していない方〉
逆にカメラマン・デザイン関係・歯科医・精密作業をする仕事等、見え方の質にこだわりが必要な方は単焦点レンズの方が向いているといえます。また術後にメガネをかけることに特に抵抗がない方も単焦点レンズが良いでしょう。
多焦点レンズでも、より細かい文字を見る時や長時間の近方作業時等、限られた場面においては老眼鏡を必要とする可能性もあります。
2020年4月より保険外併用療養費制度内の「選定療養」という枠組みで多焦点眼内レンズを用いた白内障手術がおこなえるようになりました。
「選定療養」は、追加費用を負担することで、保険適応の治療と保険適応外の治療を併せて受けることができる制度です。
2020年3月までの「先進医療」という制度では、多焦点眼内レンズの費用以外の部分である、白内障の手術自体も保険適応外となり、全額自費(もしくは、先進医療特約保険に入られている方は保険会社から給付)となっていました。「選定療養」では白内障手術自体は通常の単焦点眼内レンズと変わらず保険適応となり、多焦点眼内レンズを選択することで増える費用※についてのみ、自費で追加費用をお支払いいただくことで手術を受けられるようになりました。
※通常レンズと多焦点レンズの代金の差額+多焦点レンズを使用するにあたって追加される手術前後の追加の検査代金
厚生局報告済国内承認済多焦点眼内レンズ(2020.11.1時点)
▶日本アルコン社
AcrySof® IQ PanOptix® Trifocal*1
○アクリソフ®IQパンオプティクス®トリフォーカル(乱視入り3焦点)
AcrySof® IQ PanOptix® Trifocal トーリック*2
長い間2焦点タイプが多かった多焦点眼内レンズですが、中間視力の落ち込みが欠点でした。そこを補う3焦点眼内レンズが登場し、多くの方が遠方~中間~近方まで良好な術後視力を得られています。
中間視力が必要な場面:パソコン、食事、家事、話し相手の顔をみる、カーナビ
▶ジョンソン・エンド・ジョンソン(AMO)
○テクニス シナジー®(2焦点+焦点深度拡張型)
Tecnis Synergy®*6
○テクニス シナジー®トーリック(乱視入り2焦点+焦点深度拡張型)
Tecnis Synergy®ToricⅡ*7
○テクニス®シンフォニートーリック(乱視入り焦点深度拡張型)
Tecnis Symfony® ToricⅡOptiBlue®*5
▶ビーバービジテックインターナショナルジャパン(BVI)
FINEVISION HP*8 (POD F GF)
[医療機器承認番号]
*1)23100BZX00042000 *2)3100BZX00043000 *3)22300BZX00277000 *4)22900BZX00005000 *5)22900BZX00360000 *6)30200BZX00055000 *7)30200BZX00139000 *8)30400BZX00197000
これらの症状は多焦点眼内レンズ特有の回折構造に関連しています。例えば2焦点レンズではレンズを通る光のうち半分弱が遠方用に、半分弱が近方用に振り分けられますが、残りの十数%の光は失っています。入ってきたすべての光を利用して遠くや近くを見る単焦点眼内レンズと比べコントラストは落ちますし、失われた光による不規則な反射もあり、夜の街灯は広がって見えることも多いです。
これらの症状を自覚して不自由に感じるかは人それぞれであり、手術前に白内障が原因で、もっとコントラストが低下していたり、もっと光がひろがって見えていた方からすれば症状は感じにくいと思われます。はじめは症状を感じていても次第に慣れていくことが多いです。
〇保険診療との併用が認められている療養
評価療養・・今まで多焦点眼内レンズも対象であった先進医療(医療技術)や医薬品等の治験(医薬品医療機器に係るもの)に係る診療
選定療養の例:差額ベット・予約診療・歯科の金合金等(快適性・利便性)、200床以上の病院の再診(医療機関の選択)、制限回数を超える医療行為・180日を超える入院(医療行為等の選択)
※患者は通常の医療サービスと同様の一部負担金と、特別な医療サービスに係る上乗せ料金を負担することとなります。
多焦点眼内レンズによる白内障手術は評価療養(先進医療)枠から選定療養枠へ変更されました。(2020年4月~)
1.医療機関内での掲示
院内の見やすい場所(待合等)に、内容と費用等について掲示する。
2.患者の同意
事前に治療内容や負担金額等を患者に説明をして同意を得る。
3.領収書の発行
選定療養を受けた際の各費用の領収書を発行する。
*患者より徴収する追加料金は地方厚生局へ報告しています。
月初から月末までの1ヶ月内に、一定の金額を超えて医療費を支払った場合に、超えた医療費を健康保険組合から払い戻される制度のことです。
保険が適応される医療費のみが対象です。選定療養にて多焦点眼内レンズを用いた白内障手術を受けられた場合、保険適応の白内障手術代金の自己負担額は該当しますが、自費で追加負担した多焦点眼内レンズ代金は該当しません。
1/1~12/31までの1年間に、本人や同一生計の家族が医療費を支払った場合、一定の金額を所得から差し引く制度です。(税の控除)
医療費控除の対象は保険適応外の医療費も含まれます。所得税が軽減される制度で、多くの場合、医療費が10万円を超えると利用できます。また高額療養費として支給を受けた金額は除かれます。選定療養にて多焦点眼内レンズを選択した追加代金も対象となります。また、近視矯正治療の夜間コンタクトレンズ「オルソケラトロジー」もこの制度の対象となります。